「親亡き後問題」は、障がい者のいる家庭にとって避けては通れないテーマです。障がいのある家族が今後どう生活を続けていくか、また家族としてどのように支え合うかは大きな課題ですが、対応によって大きく変わってくるということも知っていただきたいと思います。この記事では、親亡き後の不安を軽減するための具体的な支援方法や家族間の連携の重要性について解説します。家族が一丸となって守り抜く方法を探っていきましょう。
1. 親亡き後問題の基本と障がい者の支援
「私が死んだらこの子はどうなるのでしょうか?不安で眠れません」と、70代の女性は車いすユーザーの30代の娘の相談に市役所を訪れました。下半身マヒのある娘さんは日常生活に24時間サポートを必要とし、生まれてからずっと親娘は二人三脚で生きてきたそうです。
市の担当者の言葉はこうでした。
「お母さんが動けなくなったり、お亡くなりになったら、こちらできちんと対応致しますからご安心ください。お母さんが眠れないのは心配ですね、心療内科を受診して睡眠薬をもらってきてはどうですか?」
事が起こらないと支援できないのが行政です。対応できる人数も限られていて仕方ないのも頷けます。でも、今、睡眠薬を飲まずとも、親娘が穏やかに過ごせる方法はないのでしょうか?
1-1. 障がい者の親亡き後問題とは?
前述の母娘は、父親が昨年他界。今は預貯金と母親の受け取る公的年金と自分の障害基礎年金と市から出ている障がい者手当で暮らしています。知的障がいはなく就労したいと考えていますが、一度は就労支援B型作業所に通ってみたものの、生活サポートの面で折り合わず辞めてしまいました。無職の娘さんは母親が「私が死んだらと思うと不安で…」と泣く姿に「お母さん、ごめんね。」といつも申し訳なく思ってしまうと嘆きます。何も悪くない母娘なのに支援の手は伸びてこなくて、不安は募るばかりです。実際に母が車いすを押せなくなれば、行政が手を差し伸べてきてくれると思います。でも、動けなくなってから、亡くなってからしか本当に何もできないのでしょうか?
1-2. 障がい者支援の現状と課題
ある計画相談員さんの言葉です。
「私たちは相談者さんとその家族が『生活に困らないようにする』ことに全力を上げます。そのレベルにすることも実はいろんな壁があり大変なんです。本当は相談者さんの『生活をより良くする』ことに精力を注ぎたいけれど、なかなかそこまでは手が回らないのが現実なんです」
今ある社会資源を使って家族が総力をあげれば、障がい者の家族の今を守ることは可能でも、未来を守るのはなかなか難しいことなのかもしれません。これから先の障がい者の家族のより良い生活を守るにはどうすれば、それが課題の一つです。
2. 障がい者の将来を守るための準備
障がい者の将来を守るための準備には何が必要でしょうか?
今、親がやっている財産管理はどうすればいい?
後見人を付けるべきか付けないでよいのか?
遺言は必要?
エンディングノートは書いた方がいい?
そもそもうちにとっての正解は何?
子供が成人する前にしなくてはならないことがあるって何?
これらのクエスチョンは実際に私たちが受けた質問です。まず、財産管理と遺言について考えていきます。
2-1. 財産管理と遺言書の重要性
障がい者の財産管理は以前はそう難しくなく家族ができていました。しかし、今は個人情報保護という壁が大きく立ちはだかり、18歳の成人になった障がい者は、本人の利益を守るために、財産管理や法的手続き、契約などをサポートするために成年後見人(本人の判断能力により保佐人や補助人)を立てることが求められます。必ずしも立てなくてはいけない、ということではありませんが、銀行窓口や契約を交わす場面などで、手続きが滞ってしまうことが出てくるかもしれません。
また、親亡き後問題を抱える親は障がい者の家族が受け取る遺産についても考えなくてはならず、遺言も重要になってきます。しかし、遺言に親の思いを乗せることは案外難しいものになり、心通わすことのできる専門家のアドバイスが重要となります。
2-2. 福祉サービスと支援機関の活用法
福祉サービスの基本は病院・施設から「在宅」へと移りつつあり、サービスも様変わりしてきています。充実した部分も増えている一方で、財産管理に関しては、行政サービスでは担えていない現状があり、個人の財産の保護、詐欺防止など様々な要因から、ひと昔前より後退している気がします。自分のお金を守れない人のために後見人などの制度もあり、そういった無料の専門家(司法書士・行政書士など)の相談会も行政窓口で開かれたりしていますが、長くても1時間、短ければ30分の無料相談会では、限界があります。一般論+αの答えは返ってきても、保有財産も違えば、家族構成も違う、障がいの状態も違う問題にはしっかりと対応する必要があります。
親亡き後の問題の介護や機能訓練などの問題は行政に頼れるとしても、財産管理等の「無料相談」には限界があると言わざるをえません。
3.家族の絆と支え合い、未来への道筋
障がい者の親亡き後の問題を、親亡き後の未来に変えていくのが、家族の絆と支え合いの力だと思います。ある就労支援の施設長がダウン症のお子さんのおられるお母さんにこう言っていました。
「残念ながら、あなたはこの子の老後の面倒をみることはできません、あなたのほうがたぶん先に死にます。だからこそ、この子の未来を真剣に考えてください。悲観ばかりしていても始まらないでしょ?一緒に考えますから明るい未来を探していきましょう」
障がい者本人はもちろん、その家族も周りの力を借りながら、まず歩き出すことが重要です。
3-1. 家族間での役割分担と協力
もし、家族のことは家族で守る、そう決めて歩き出すときには「家族信託」を一つの選択肢として取り入れることをお勧めします。ぜひ任意後見人にと決める前に考えてください。障がい者の家族を守っていくため、家族の役割分担を明確化できます。そして、それが様々な場面で効力を発揮します。
例えば、このお金を障がいのある息子のために使いたいと考えるお父さんがいたとします、でも障がいのある息子にお金を預けることはできず、お父さんは信頼できる自分の弟に任せようと考えました。何もせずに弟の口座に「私に何かあったらこのお金でうちの息子を頼む」と振り込んでしまったら、そのお金は弟に贈与したとみなされ税金がかかることになります。しかし、お父さんの思いを詰めた家族信託契約書を作成してから、弟の口座に振り込んでも、それは贈与ではなく契約でお金を託しているということになります。弟さんも契約で守られるため、お兄さんや甥のために協力したいと申し出てくれることでしょう。
3-2. 互いの理解を深めるために必要なアイテム
「家族信託」は、互いの思いを確かめ合い、互いの理解を深めるために重要な契約です。親亡き後の未来を明るくするためにお金は重要です。でも、しっかり準備と対策をたてておかないと、そのお金の使い道が必ずしも障がいを持つ家族の明るい未来を築くものにならないということにもなりかねません。思いを契約にするためには、専門家のサポートは必要です。じっくりゆっくりお話に耳を傾ける「晴れるや」は、障がい者や障がい児とともに歩むご家族と一緒に語り合う座談会(対面orZOOM)も開催しています。グループでもおひとりでも構いません。ぜひお声かけください。最善策を一緒に探していきましょう。